突然ですが、以下のような経験をしたことはありませんか?
●物事の優先順位が分からず、締め切りを守るのに常に苦労している
●職場でのコミュニケーションに困難を感じる
●集中力が続かず、シンプルな作業でもミスが多い
●仕事のストレスで体調を崩しやすい
もしこれらの症状に心当たりがあるなら、単に「仕事ができない」というより、何らかの障害が影響している可能性があるかもしれません。
このページでは、「発達障害」や「精神障害」に焦点を当てて、それぞれの特性について解説していきます。
仕事のパフォーマンスにどのような影響を与えるのか・そしてそれにどう対処すればいいのかについても合わせてみていきましょう。
仕事のパフォーマンスに与える障害
まず仕事に影響する主な障害について、発達障害と精神障害に分けて詳しく見ていきます。
発達障害
発達障害は脳の発達に関わる障害の総称です。
近年、正式な名称として「発達症」「神経発達症」という呼び名に変更されていますが、まだ浸透していない側面も踏まえて発達障害という項目で解説していきます。
発達障害には、知的発達症、自閉スペクトラム症、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、学習障害、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症などが含まれています。
主なものをみていきましょう。
自閉スペクトラム症(ASD)
自閉スペクトラム症は、社会的コミュニケーションの困難さと限定的・反復的な行動パターンを特徴とする神経発達障害です。
症状の程度は個人差が大きく、軽度から重度まで幅広い「スペクトラム」として捉えられています。
仕事への影響
●非言語的コミュニケーション(表情、身振り)の理解が難しい
●対人関係の構築・維持が難しい
●社会的・感情的な相互コミュニケーションが苦手
●日課やルーティンへの固執してしまい柔軟に対応できない
●がやがやしている所だと集中しづらい
対応策
●明確で具体的な指示を求める
●重要な情報は書面で確認する
●感覚過敏に配慮した環境調整(照明、音など)を行う
●集中できる静かな作業スペースを確保する
●スケジュールや To-do リストを視覚化する
曖昧な指示などは混乱を招く場合があります。「短く簡潔に“何に対してどういう行動をとってほしいか”を伝える」という工夫が周りに必要になってきます。
「多めに準備しておいて」「あそこらへんに置いといて」などといった抽象的な言葉は使わず、具体的な数値・場所を示すことが何より重要です。
また急な予定変更はパニックになる恐れがありますので、分かっている場合は事前に伝えておくなどの配慮も必要になってきます。
また、得意な分野には非常に集中して取り組んだり論理的思考力はとても高かったりするケースも存在します。
特定分野への深い知識や興味を仕事に活かせるような業種や部署につくと高い能力を発揮することも少なくありません。
ADHD(注意欠如・多動症)
ADHDは、注意力の問題や衝動性・多動性を特徴とする障害です。
仕事への影響
●集中力の維持が困難で、タスクの完了に時間がかかる
●締め切りの管理が苦手で、スケジュールの遅れが生じやすい
●衝動的な発言や行動により、職場の人間関係に影響が出ることがある
対応策
●To-doリストを活用し、タスクを細分化して優先順位をつける
●タスク管理アプリを使用して視覚的に管理する
●タイマーを活用して作業時間を区切る
●必要に応じて集中しやすい静かな環境を確保する
●ノイズキャンセリングヘッドホンを使用する
●仕事場の整理整頓を心がける
●重要な指示は書面でもらうようお願いする
●メモを取る習慣をつける
●重要な決定の前に「5秒ルール」を適用(5秒数えてから行動する)
など、それぞれの特性に応じて工夫が必要です。
衝動的に発言してしまいコミュニケーションの齟齬が生じやすいケースでは、相手の立場に立って発言する習慣をつけることを、専門機関で行えるロールプレイなどで練習すると有効な場合があります。
一方で、ADHDの特性には「創造性が高い」というクリエイティビティに優れている傾向があることが分かっていますので、業種そのものを変えたほうがうまくいく場合もあるということを覚えておくとよいでしょう。
チック症
チック症は、突発的で反復的な運動や発声を特徴とする神経発達障害です。
具体的には、目をぱちぱちさせる・首を振る・肩をすくめるなどの不随意な動作が起きる「運動性チック」、咳払い・鼻を鳴らす・特定の言葉や音を発するなど「音声チック」などがあります。
仕事への影響
●チックを抑制しようとすることで、タスクへの集中力が低下する可
●音声チックの場合、会議や顧客対応などのコミュニケーションに支障をきたす
●チックの抑制や管理に多くのエネルギーを費やし、ストレスや疲労を感じやすくなる
●チックに対する周囲の反応を気にすることで、パフォーマンスに影響する
などの特徴があります。
対応策
●必要に応じて上司や同僚に状況を説明し、理解を求める
●一時的に休憩できるスペースを確保する
●仕切りなど個別のスペースを作る(周りからの視線や反応で集中が途切れないよう)
LD(学習障害)
LDは、読み書きや計算など、特定の学習能力に困難を示す障害です。
仕事への影響
●文書作成や報告書の読解に時間がかかる
●数字を扱う業務(経理など)で苦労することがある
対応策
●音声認識ソフトウェアを使う:書字障害の場合に有効
●テキスト読み上げソフトを使う:読字障害の場合に有効
●計算ソフトの活用:算数障害の場合に有効
いっぽう、読み書きは苦手でも口頭でのコミュニケーションが得意な場合が多いためプレゼンテーションなどで力を発揮することがあります。
グレーゾーンの場合
「グレーゾーン」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
これは、明確な診断基準に当てはまらないものの、何らかの困難さを抱えている状態を指します。特に発達障害の分野でよく使われる言葉です。
たとえば「落ち着きがない」とか「タスク管理が苦手」といった典型的な障害の特徴をいくつか持っていますが、診断基準を完全には満たしていません。
症状の程度や数が診断基準に達していない場合には診断名をつけることが出来ないからこそ「白でもないが黒ともいえない」グレーゾーンという呼び名が存在するわけですね。
このような場合は、診断名にこだわらず自分の特性に応じて対応策を考えたほうがよいでしょう。
特に近年カウンセリングなどはオンラインでも手軽に受けられるよう整備されていますし、臨床心理士・公認心理士のカウンセリングは病院で診断されていなくても受けることが可能です。
メンタルケアだけでなく日常の工夫、考え方の修正など仕事を健康的に行ううえで必要なアドバイスを受けることができますので積極的に活用しましょう。
精神障害
精神障害は、思考、感情、行動に影響を与える障害の総称です。ここでは、うつ病・不安障害・適応障害について見ていきましょう。
うつ病
うつ病は、持続的な抑うつ気分(落ち込み)や興味・喜びの喪失を主な症状とする障害です。
仕事への影響
●集中力や意欲の低下により、業務効率が落ちる
●疲労感や睡眠障害・意欲の著しい低下により、出勤そのものが困難になることがある
●自己評価の低下により、仕事の価値を見出せなくなる
対応策
●薬によって睡眠時間を確保する
●可能な範囲で業務量や内容の調整を依頼する
●短時間勤務やフレックスタイム制の活用を検討する
●必要に応じて休職・転職を検討する
●休職後の復帰の場合、段階的に業務を増やしていく
うつ病の場合は、そもそも仕事の工夫をする意欲などもなくなり、生活リズムを保つのも難しくなりがちです。
そのうえ不眠などでより思考力が低下する可能性があるので、まずは睡眠リズムを整えることから始めるのが賢明です。
不安障害
不安障害は過度の不安や場にそぐわない恐怖などを特徴とする障害群です。
仕事への影響
●過度の心配により、意思決定が遅れたり、リスクを取ることが難しくなる
●不安に耐えることでよりストレスを抱えやすくなる
●会議やプレゼンテーションなどの場面で言葉が出なくなったり震えたりする
●完璧主義的な傾向により、タスクの完了に時間がかかることがある
対応策
●精神科医や心理療法士のもとで適切な治療を受ける
●認知行動療法(CBT)などの心理療法を活用する
不安障害は他の障害とは少し異なり、「不安を引き起こす場面を避ける」という工夫が裏目に出ることがかなり多いです。
不安障害を抱える人はそもそも回避行動といって、「電話を取らない」とか「人目を避ける」とかそういった不安を引き起こす場面を避ける工夫を自然に行うことが知られています。
しかしこの回避行動自体が新たな不安を生んだり、不安をより強めたりすることが研究で明らかになっているのです。
早期に適切な治療が受けられれば強い恐怖心が徐々に改善していきやすいのも特徴ですので、専門家のもとでカウンセリングや治療を受けるようにしましょう。
考え方や行動の偏りを少しずつ修正していく認知行動療法が有効ともいわれています。
適応障害
適応障害は、ストレスフルな出来事や状況の変化に対して、過剰または不適切な反応を示す障害です。
仕事への影響
●環境の変化(異動、昇進など)にうまく適応できず、パフォーマンスが低下する
●ストレス耐性が低く、プレッシャーを過度に感じ業務効率が落ちる
●気分の変動が大きく、一貫したパフォーマンスを維持するのが難しいことがある
対応策
●ストレス因子を取り除く
●何が適応障害を引き起こしているのか明確にする
●業務量・業務内容などを調整してもらう
適応障害はストレスの原因となる出来事(転職、就職、配置転換、離婚、病気の発症など)から3ヶ月以内に症状が現れ、通常6か月以内には消失します。
ストレス因子が目の前にない状態だと元気になるのも特徴です。
ただ放っておくとうつ病に移行したり他の精神障害を発症したりするので注意が必要です。
プレイヤーとしての経験年数は非常に長いのに、急に管理職を任されたりなどそれまで行ってきた経験とは異なる状況下に置かれると、その環境に適応できなくなり普段出来ていた仕事まで出来なくなってしまう・・・といったケースもみられます。
そういった場合でも、元の業務に戻された場合には一気に回復することも多いため、何からストレスが来ているのかを明確にして、それを取り除くことはとても大事な対応策です。
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まとめ
障害は確かに困難をもたらすことがありますが、それは同時にユニークな視点や能力を育む源にもなります。
ADHDの創造性、ASDの特定の興味・関心の高さや注意力、うつ病からの回復過程で得られる自分に対する洞察力など、障害特性が仕事上の強みとなる可能性は数多くあります。
特性に合った対応策や強みを見出しながら、自分らしいキャリアを築いていきましょう。