「仕事の代わりがいないから休めない」という状況に悩んでいませんか?
この問題は程度の差こそあれ、実は日本だけでなく先進国でよく見られる現象です。
オンライン旅行会社の「Expedia」では通常19〜20カ国程度を対象とした年次有給休暇の取得日数や休みに対する意識調査が毎年実施されていますが、2022年の調査では全体で61%の労働者が休暇の取りづらさを感じているという結果が出ています。
また休暇に対する捉え方は文化的要因によって異なり、北欧諸国では休暇を取ることが「個人の権利」であり、社会の健全性を保つために必要不可欠だと考えられています。
対して、アジア諸国では休暇を取ることに罪悪感を覚える傾向があるため、休暇に対する意識が大きく違うというのが実情です。
日本でも過労死に繋がるような長時間労働が過去問題視されながらも、「休暇を取らずに仕事に励むのが美徳である」という考えかたはいまだ根強くありますよね。
実際、厚生労働省「令和4年就労条件総合調査」によると、国内においては2021年(または2021会計年度)の年次有給休暇の取得率は56.6%です。
2021年のアメリカの調査では約63%、韓国では2020年で67.8%(2020年)と年度は違えど日本は特に取得率が低いことがわかります。
他の国では正確な取得率が公表されていませんが、フランスの労働法などでは、フルタイム労働者に対して年間最低5週間の有給休暇が法的に保証されているため、そもそも具体的な調査の必要もないというのが実際のところかもしれません。
この記事では「代わりがいないから仕事を休めない」問題について、原因と法的な観点から見た問題、対処法まで幅広く解説していきます。
なぜ「代わりがいないから仕事が休めない」状況に陥るのか
まず、この状況を引き起こす原因から見ていきましょう。
単純な人手不足
誰かの休みが発生すると、誰かがその分の仕事をしなくてはならない。
そういった場合、そもそもの業務量に加え休みの人のサポートも必要になってきます。ただ人手不足になると、
●「仕事を頼むのが申し訳ないからよほどの用事がないと休めない」と思ってしまう
●常に忙しいため休日に依頼したい内容を伝える時間がそもそも作れない
●職場自体に休みにくい雰囲気が生まれてしまい、慢性化してしまう
といった状況になりがちです。
そもそも日本は高齢社会なうえに少子化に拍車がかかっており、労働人口が大きく減少しています。
人手不足はどこの企業でも起こり得る問題といえるでしょう。
「業務の引き継ぎシステム」が不十分
休暇中の業務を他の人に引き継ぐシステムが整っていない場合にも休みが取りづらくなります。
可能であれば、引継ぎの必要性そのものをなくすことも必要です。その人がいないときでも業務が滞らないようシステム化するなど、態勢が整っていないと起こりがちです。
業務の専門化
近年、業務の専門化が進んでいます。
特定の人だけが持つ専門知識や技能が増えると、その人がいないと業務が回らなくなります。
固有のスキルを持っているとか、クライアントとの話し合いが控えているものの技術的な話は自分にしか分からないとか、引き継ぐ相手がいない場合にも起こり得る問題といえるでしょう。
個人の責任感の強さ
●自分がいないと仕事が進まないという思い込み
●自分にとって仕事の責任が重いと感じている
単に仕事量だけの話ではなく、「自分がやらなければならない業務だ」と感じていると人手不足など人員的な問題がなくても休みが取りづらくなります。
そもそも休みが取りづらい雰囲気の職場
引継ぎはシステム化されており時間も確保できる状況下にあるものの、職場内のコミュニケーションが密でないとか、そもそも引継ぎが円滑にできるような雰囲気にないケースも存在するでしょう。
上司が休暇取得を奨励しない・または自ら率先して休暇を取らないなどといった状況でも部署全体の休暇の取りづらさに影響を及ぼす可能性があります。
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「代わりがいないから休めない」状況の法的問題点
ここまで原因をみてきましたが、実際問題「代わりがいないから休めない」という状況は、単に個人のせいではありません。
実は法律違反の可能性が高いのです。
労働基準法から見た違法性
労働基準法第39条では、使用者(会社)は労働者に年次有給休暇を与えなければならないと定められています。
つまり、休暇を取得する権利は法律で保護されているのです。
2019年4月からは、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年5日の年次有給休暇の確実な取得が使用者の義務となりました。
これは「働き方改革関連法」の一環です。
有給休暇取得の権利と企業の義務
企業には従業員の有給休暇取得を促進する義務があります。
「有給を取るなとは言っていない」と企業側が答えたとしても、そもそも休みにくい状況を引き起こしている場合は同じことです。
「代わりがいないから」という理由で休暇取得を妨げることは、この義務に反する可能性が高いことを認識しておきましょう。
過重労働は健康被害を生む
「代わりがいないから休めない」状況は、過重労働につながる可能性が高いです。
厚生労働省の「過労死等の労災補償状況」(2021年度)によると、過労死や過労自殺の労災認定件数は801件にのぼります。
休暇が取れないことで長時間労働が常態化すると、身体的・精神的健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
これは個人の問題だけでなく、社会全体の問題でもあるのです。
休みを取る事は「労働者の権利」
「代わりがいないから休めない」と悩む前に、自分の労働者としての権利をしっかり理解しましょう。
休みが取りにくい職場は、その他の基本的権利についても蔑ろにしてしまっているケースがとても多いです。
労働基準法では、労働者の基本的な権利がいくつか定められています。その中には、以下のようなものがあります:
- 1日8時間、週40時間を超える労働の制限(第32条)
- 休憩時間の確保(第34条)
- 週1日以上の休日の確保(第35条)
- 年次有給休暇の付与(第39条)
これらの権利は、労働者の健康と生活を守るために設けられています。
「代わりがいない」という理由で、これらの権利が侵害されることがあってはならないことを覚えておきましょう。
代わりがいなくて休めないときの対処法
では、実際にこの状況を改善するにはどうすればいいのでしょうか?個人レベルと組織レベルでの対策を見ていきましょう。
個人レベルでの対策
個人で工夫して出来る対策です。業種によっては当てはまらない場合もあるため、自分に最適な改善方法を編み出すヒントとして使ってみてください。
業務の可視化と共有
まず、自分の業務を可視化することから始めましょう。具体的には以下のような方法があります。
●業務日報を作成する
●業務フローを図式化する
●マニュアルを作成する
これらの方法で業務を可視化することで、他の人が代わりに仕事を行いやすくなります。
わざわざ紙面で作るよりも、いつでもネットワーク上で共有できるほうがより効率的に共有できます。
クライアントワークの場合はグループ内で代理担当者を決めておき、いつでも各クライアントの最新状況、進行中の案件、今後の予定などにアクセスできるようにしておくなどの工夫も必要です。
スキルアップと知識の分散
自分の専門性を高めつつ、同時に他の人にも知識を共有することが重要です。以下のような取り組みを行いましょう。
●定期的な勉強会の開催
●メンター制度の活用
完全に専門スキルを覚えてもらうよう教育するよりも、せめて休みの日にフォローとして動いてもらえるだけのスキルを身に着けてもらうほうが先決である場合もあります。
5分程度の短い解説動画を毎週1本作成し、共有しておくだけでも、勉強会など開催する時間が合わないケースでも活用しやすいです。
組織レベルでの対策
以下は組織レベルでの対策です。
休みを優先的に取れるようにし、職場全体で生産性を上げる取り組みとして活用するという意味でもとても重要になってきます。
人材育成と適切な人員配置
経営者や人事部門は、以下のような取り組みを行うとよいでしょう。
●計画的な採用と育成
●ジョブローテーションの実施
●クロストレーニングの導入
人員補充は最優先に行うべき対処法ですが、労働人口が少ない現状がある以上、なかなか難しい側面もあるでしょう。
その場合、ローテーション制の導入はあらゆる場面で効果的です。3~6ヶ月ごとに異なる工程や業務を担当するローテーションを実施するものになります。
具体的な例を上げると、製造ラインであれば全工程の基本的な操作を習得できるでしょうし、介護業務であれば人手不足の部署にも他部署から出向いて対応できるのが強みになります。
クロストレーニングは自分が担当する業務に近い業務を学ぶことで、休みが発生しても組織が柔軟性を持って対応できます。
電話対応担当者がメール対応やチャットサポートのスキルを学ぶのも一例としてあるでしょうし、人事部門であれば採用担当者が給与計算や福利厚生管理のスキルを習得することも挙げられるでしょう。
急な欠勤や休暇時に対応しやすくなるうえ、新しいスキルの習得により個人のモチベーション向上にもつながります。
業務プロセスの見直し
効率的な業務プロセスを構築することで、「代わりがいない」状況を改善できます。
●業務の棚卸しと不要な業務の削減
●ITツールの活用による業務効率化
そもそもの業務の量やスケジュール・進捗の共有方法を見直すだけでも、休みがとりやすくなる場合があります。
休暇取得を促進する制度設計
組織として休暇取得を促進する仕組みづくりも重要です。
●計画的な休暇取得制度の導入
●休暇取得率を人事評価に組み込む
●経営陣自らが率先して休暇を取得する
前述したとおり、「休みを取るなとは言っていない」からといって、職場が休みにくい雰囲気であれば同じことです。
休みは「積極的に取る」よう部署や組織内で意識して取り組むようになってこそ、「取りやすい環境」だといえます。
まとめ|代わりがいなくて休めないときは労働者としての権利をチェック
企業は「休みがとりやすい」組織づくりを目指す義務があります。
職場がまだまだこういう環境とは程遠いといった場合、個人レベルではなかなか改善されない場合も多いです。職場環境が全く改善されない場合には、過重労働で体を壊したりする前に休職や転職を検討することも必要です。
労働者側も管理職や経営側・職場に積極的に働きかけ、「休みが取りやすい」職場を目指しましょう。