日本の現代社会は、長時間労働や過度な効率重視、スマホの普及による情報過多、人間関係の希薄化などが相まって、仕事でのストレスが蓄積しやすく、人によってはプライベートでもそのストレスが発散しにくい環境にあります。

また、ストレス・不安の厄介なところは、あらゆる身体症状として出てくる側面もあるという部分です。

特に、動悸や強い不安感・恐怖心は、仕事をする上での支障になりうるかもしれませんし、それ自体が大きなストレス因子にもなりますよね。

今回は、仕事上においてこれらの症状を引き起こす原因となるストレス因子・病気について、また効果的な対処法について詳細に解説していきます。

仕事中の動悸と不安の症状

一般的な不安の症状としてみられるものは、以下の通りです。

●心臓がドキドキする(動悸)

●息苦しさ

●手足の震え

●発汗

●めまい

●吐き気

●集中力の低下

動悸が特定の場面(仕事に行く前や職場に近づいたとき、プレゼンや人の注目を浴びるとき等)で起こったりする場合は、仕事や仕事上の環境が明らかにストレス因子になっている可能性が高いでしょう。

また、動悸だけでなく上記の各種身体症状と合わさって出現するケースも珍しくありません。

動悸の特徴

動悸は心臓が通常よりも速く、または強く拍動していると感じる症状です。

強くドキンとしたりする場合は動悸です。

普段、私たちは心臓の拍動を意識することはありません。「自分の心臓の拍動を意識すること」があれば、動悸といえるでしょう。

仕事中に動悸や不安を感じる原因

仕事中に動悸や不安を感じる原因は多岐にわたります。主な原因を以下に挙げます。

仕事のストレス

仕事のストレスは、動悸や不安を感じる最も多い要因です。

●締め切りのプレッシャー

●過剰なノルマ

●個人の能力にそぐわない職場配置

●職場での人間関係の問題

●評価や昇進への不安

シンプルに考えると1日のうち労働が占める割合というのは長く、労働者の大半が活動の多くを仕事に費やしています。

また人にとって仕事は単に「働いてお金を稼ぐ」場ではなく、意味のある活動を通じて自己実現を図る傾向があり、個人のアイデンティティ形成に重要な役割を果たすといわれます。

つまり、仕事がうまくいくか行かないかというのは個人の自尊心や精神的健康に直結するような課題というわけですね。

そのため、ノルマが個人の能力を超えて厳しかったり、締切のペースに能力が間に合わなかったりすることが予測されると、人は不安になったり自分自身の自己表現がうまく出来なくなって心身の健康を損ねる結果になる、といえるでしょう。

身体的要因

個人の身体的要因も、動悸を引き起こす要因になります。

●疲労の蓄積

●睡眠不足

●カフェインの過剰摂取

●低血糖

これらの身体的要因に加えて、仕事中に体を動かしたりハードな動きをすると動悸が起きるという場合、また不安感や恐怖心は伴わないといった場合はストレスよりも身体的な要因のほうが強いかもしれません。

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心理的要因

以下は、動悸や不安を引き起こす可能性のある心理的要因です。

●完璧主義的な考え方

●プレッシャーを感じやすい

●過度の責任感

●自信の欠如

●過去のトラウマ体験

仕事のノルマも厳しくなく、本来の力を発揮できれば乗り越えられるはずの課題に対してとても大きなプレッシャーを感じたり、100点を目指さないといけない、といったような捉え方をしやすい傾向にある方もいます。

その場合どんどん精神的な消耗が激しくなり、出来ていたはずのことが出来なくなることがあります。

ストレスが強くなり不安障害やうつ病などを引き起こしたりすることで業務が遂行できなくなり、また自信を喪失する・・・といった悪循環に陥ってしまいがちです。

関連する疾患

仕事中の動悸や不安が持続する場合、以下のような疾患の可能性も考慮する必要があります。

不安障害

不安障害は、その名の通り不安や過度の恐怖心を抱える障害のことです。

さまざまな種類が存在します。

全般性不安障害

全般性不安障害は、日常生活の様々な側面に対して過度で持続的な心配や不安を特徴とします。日本不安症学会のガイドラインによると、以下の特徴が見られます。

●不安の対象が多岐にわたり、特定できないことが多い

●仕事のパフォーマンス、健康、家族の安全など、様々な事柄に過度に心配する

●不安をコントロールすることが難しい

●身体症状:筋肉の緊張、疲労感、集中力の低下、睡眠障害

●6ヶ月以上症状が持続する

社交不安障害

社交不安障害は、社会的状況や人前でのパフォーマンスに対する顕著な恐怖や不安を特徴とします。日本不安症学会によると、以下の特徴が見られます。

●人前で話す、会議に参加する、上司と話すなどの状況で強い不安を感じる

●他人から否定的に評価されることへの過度の恐れ

●身体症状:動悸、発汗、震え、吐き気

●社会的状況の変化(昇進や転職、受検など)を回避する傾向がある

広場恐怖症

広場恐怖症は、特定の対象や状況に対する強い恐怖や不安を特徴とします。

職場に関連する特定の恐怖症として、以下のようなものがあります。

閉所恐怖症:エレベーターや小さな会議室などでの不安

高所恐怖症:高層ビルでの仕事や出張時の飛行機搭乗への不安

元々仕事で運送業をしていて今までどうもなかったのに、急に高速道路やトンネルが怖くなってしまったなどの例も存在します。個人によってどの場面で恐怖症が現れるかは様々です。

パニック障害

突然の激しい不安発作(パニック発作)を特徴とする疾患です。

バスの中や飛行機、通勤中の電車の中などで緊張や不安が強い場所で起こりますが、1人の時に誰も助けを求められないという不安が強いことなどでも起こります。

また将来の発作に対して過度の不安を覚えるようになったり、発作を引き起こす可能性のある状況を回避するための行動変化がみられます。

その場合通勤が大変になったり、出勤できなくなったりします。

うつ病

不安症状を伴ううつ病も少なくありません。

特にうつ病と不安障害を併発していたり、うつ病で自信を喪失してしまい仕事場にいくのが精いっぱいといった状態などだと、不安・動悸に繋がることがあるでしょう。

ストレスと疾患の見分け方

ストレスによる一時的な症状は、以下の特徴があります。

●状況依存性(特定の状況でのみ現れる)

●短期間で回復する

●休息や気分転換で改善する

しかし状況依存性に関しては、広場不安など一部の不安障害でもみられるので注意が必要です。

疾患の可能性を示唆する兆候

以下の兆候がある場合は、何らかの疾患の可能性があります。

●症状が長期間(2週間以上)続く

●症状が日常生活に大きな支障をきたす(不眠を招いたり仕事に行けないなど)

●休息や気分転換で改善しない

●身体的な症状(持続的な動悸、めまい、呼吸困難など)が顕著

こういった場合は、専門機関に相談するのがベストでしょう。

即効性のある対処法

仕事中に動悸や不安を感じたときに、その場で試せる対処法をいくつか紹介します。

呼吸法(4-7-8呼吸法)

  1. 鼻から4秒かけてゆっくり息を吸う
  2. 7秒間息を止める
  3. 口から8秒かけてゆっくり息を吐く
  4. これを4回繰り返す

この呼吸法は、自律神経系のバランスを整えるのに効果的だと言われています。

日本自律神経学会の研究でも、深呼吸が交感神経の活動を抑制し、副交感神経の活動を促進することが示されています。

自律神経を整えるとリラックス効果が得られ、不安感もいくらか軽減したり不安から気をそらす効果があります。

マインドフルネス技法

●今この瞬間に意識を向ける

●身体の感覚・呼吸に注目する

●思考や感情を判断せずに観察する

マインドフルネスは、単なる瞑想法ではなくSONYや日立・楽天・リクルートなどあらゆる企業が取り入れている、ストレス軽減や生産性の向上が実証されているプログラムです。

日本マインドフルネス学会の報告によると、短時間のマインドフルネス実践でもストレス反応の低減効果が認められています。

またマインドフルネスも呼吸に集中する技法があるため、気を落ち着かせたいときなどは「息を吸って、吐いている」ということに集中するようにしてみましょう。

不安を解消するために実践する分には家で寝ている状態でも職場でラクに座っている状態でもどちらでも構いません。

呼吸に集中している中で「これが不安だな・・・」「あの時、ああしていればよかったのでは」という不安に駆られた時も、気が付いたら呼吸に意識を戻すことが続けるコツです。

マインドフルネスは継続すると慢性的なストレスを軽減させ不安を落ち着かせますが、不安障害などを引き起こしている場合は専門的な治療が必要なケースも存在します。

もしかしたら業務の内容が個人にあっていない場合や職場の配置転換・休職が必要な状況になっていることもあるため、不安や苦痛に耐えるよりは休職・転職を考えたり、仕事を続けたい場合は病院で相談するなど専門家のサポートをもらったほうがよいでしょう。

まとめ|仕事中の動悸や不安は放置しないこと

仕事中の動悸や不安は、多くの人が経験する症状です。

しかし放っておくと、不安が円滑な業務の遂行を妨げ、不安が強まる負のループに陥ってしまいます。

症状が持続したり日常生活に支障をきたす場合は、躊躇せずに専門家に相談することをおすすめします。一人で抱え込まず周囲のサポートを得ながら、より良い職場での自己実現を目指しましょう。