仕事に行くのがつらい、毎日憂うつ・・・そんな気持ちを抱えていませんか?

実はこうした感覚は、単に仕事が原因なのではなくうつ病の初期症状かもしれません。

厚生労働省が毎年実施している「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、2020年の調査では、仕事や職業生活に関して不安、悩み、ストレスを感じる労働者の割合は52.0%と半数近くになっています。

身体的負荷が強い、人間関係が辛い、など理由は様々ですが仕事による強いストレスというのは多くの人が抱えている悩みであることが分かりますね。

しかし過度なストレスを抱えたままにしておくと、いつのまにかうつ病を引き起こしてしまう要因になってしまうことも。

この記事では、仕事のストレスとうつ病の関係やうつ病のサイン、また仕事を休職・退職するときの判断基準や流れまで詳しく解説します。

「仕事はやめたいけどお金が心配・・・」といった場合も、経済的サポート制度が役立つかもしれません。働く人の心の健康を守るための第一歩として活用いただければと思います。

うつ病と仕事の関係性

うつ病と仕事は密接な関係があります。

2019年の労働政策研究・研修機構の調査によると、うつ病などのメンタルヘルス不調の主な原因として、「仕事の量的負担」「仕事の質的負担」「対人関係のストレス」が挙げられています。

うつ病は「脳の病気」、といった認識も広まりつつあります。うつ病になると脳内の神経伝達物質が不足することが分かっているからですね。

しかしその発症には様々な因子が絡み合っていると言われていて、「基本的には脳の病気だからメンタル面は関係ない」といったようなことはありません。

遺伝的要因や性差、幼少期の体験、慢性的なストレスなどからうつ病のリスクが高まるなど非常に多くの要因が影響し合ってうつ病の発症へと至るのです。

特に慢性的なストレスはうつ病のトリガーになると言われているため、仕事におけるメンタルヘルスケアは心身の健康にとても重要な役割を果たします。

うつ病の初期症状と兆候

うつ病は誰にでも起こりうる心の病気です。また初期の頃は単なる疲れや気分の落ち込みと勘違いされやすいのが特徴です。

アメリカ精神医学会の診断基準である「DSM-5」によると、うつ病の主な症状には以下のようなものがあります。

  • 毎日のように感じる抑うつ気分
  • ほとんど全ての活動に対する興味や喜びの喪失
  • 体重の増減や食欲の変化
  • 不眠または過眠
  • 精神運動の焦燥または制止
  • 疲労感や気力の減退
  • 無価値感や過剰な罪悪感
  • 思考力や集中力の減退、決断困難
  • 死について繰り返し何度も考える(自殺念慮)

これらの症状のうち、5つ以上が2週間以上続く場合、うつ病の可能性が高いとされています。

ただし、これはあくまで一般的な目安です。症状の程度や持続期間は個人差があるため、自己判断せずに専門家に相談することが大切です。

仕事中に現れやすいうつ病のサイン

職場でのうつ病のサインは、普段の業務パフォーマンスの変化として現れることが多いです。

日本産業精神保健学会の研究によると、以下のような変化が見られる場合にはうつ病の可能性を考慮する必要があります。

  • 遅刻や欠勤が増える
  • ミスや失敗が目立つようになる
  • 決断力が落ちる、判断に時間がかかる
  • 集中力が続かない
  • 以前よりイライラしやすくなる
  • 同僚とのコミュニケーションを避ける
  • 表情が暗く、元気がない

これらの変化が顕著になってきたら要注意といえるでしょう。特に複数のサインが同時に現れる場合は、うつ病の可能性が高くなります。

仕事を休職・退職する際の判断のポイント

うつ病の症状が出ている中で仕事を続けるべきか、それとも辞めるべきか・・・。とても悩ましい問題ですよね。判断に役立つポイントと休職・退職の流れを見ていきましょう。

適度な仕事は心の健康に良い影響を与えることもあります。規則正しい生活リズムの維持や、達成感、社会とのつながりなど、仕事にはメンタルヘルスにプラスの効果もあるのです。

また、元々の仕事が好きだけれどうつ病の症状が強くなりすぎて能力が追い付かなくなってしまった、といった場合にも「辞めたいけどうつ病の症状さえなければ本当は続けたい」といった状況の方もいるでしょう。

そういった方の場合は、一旦休職するほうが良いかもしれません。

休職のタイミングと手続き

症状が重い場合や業務調整・配置転換だけでは対応が難しい場合には休職を検討しましょう。休職のタイミングは、以下の点を考慮して決めます。

  • 症状の重さ:日常生活に支障をきたす程度の症状がある場合。
  • 医師の判断:主治医から休養を勧められた場合。
  • 業務への影響:ミスが増えたり、業務効率が著しく低下したりしている場合。

また休職の手続きは以下の流れで行います。

  1. 主治医に相談し、休職の必要性を確認する。
  2. 診断書を取得する。
  3. 上司や人事部門に休職の意向を伝える。
  4. 会社の規定に沿って、休職申請書を提出する。
  5. 休職期間や条件について話し合い、合意する。

段階的な復職プロセスの実践

休職後の復職は、一気に元の業務に戻るのではなく、段階的に行うことが推奨されています。一般的な段階的復職プロセスは以下のようになります。

●リハビリ出社期(2〜4週間)

・短時間(1〜3時間程度)の出社
・軽作業や研修への参加

●短時間勤務期(1〜2ヶ月)

・勤務時間を徐々に延ばす(4〜6時間程度)
・軽度の実務を開始

●通常勤務移行期(1〜2ヶ月)

・フルタイム勤務に移行
・通常業務を段階的に再開

●通常勤務期

・通常の業務内容と勤務時間に完全復帰

これらは目安であり、各段階の期間は個人の状況や会社の規定によって異なります。定期的に産業医や主治医の診断を受け、状態を確認しながら進めていくことが大切です。

退職を検討すべき状況とは

以下のような状況の場合、退職を検討する必要があるかもしれません。

●症状が重度で、日常生活に支障をきたしている

●職場環境の改善が見込めず、症状の原因が継続的に存在している

●医師から休養を勧められている

●業務上のミスが増え、重大な事故や問題を引き起こす可能性がある

症状が強い場合、また仕事自体がストレスの大きな要因となりうつ病からの回復がなかなか見込めないといった場合には退職も考えたほうがよいでしょう。

専門家の意見を聞く重要性

退職という大きな決断を下す前に、必ず専門家の意見を聞くことをおすすめします。

主治医は症状や治療の進捗状況を最もよく把握していますし、産業医は職場の状況と心身の健康の両方を考慮したアドバイスをしてくれます。

特に、うつ病の状態は思考がなかなか働きにくかったり、自分の意志決定を伝えるのさえ億劫であったりします。自分1人の力だけでなく、手助けしてもらいながら今後のことを考える必要があるでしょう。

専門家の意見を参考にしつつ、自分の状況をよく見極めて決断することが大切です。

うつ病での退職プロセス

専門家の意見を加味しつつうつ病を理由に退職を決意した場合、どのようなプロセスを踏むべきでしょうか。

①医師の診断書を取得する:
うつ病を理由に退職する場合、医師の診断書があると手続きがスムーズになります。

②上司や人事部門に相談する:
退職の意思を伝え、今後の流れについて確認します。

③退職届の提出:
会社の規定に沿って、退職届を作成・提出します。

④引継ぎ作業を行う:
可能な範囲で、担当業務の引継ぎを行います。

⑤退職金や保険の手続きを行う:
退職金の受け取り方法や、健康保険・年金の切り替えなどの手続きを確認します。

退職後の経済的サポート制度

退職後の経済面で利用できる主なサポートには以下のようなものがあります。

●失業保険(雇用保険の基本手当)

・一定の条件を満たせば受給可能
・受給期間は年齢や被保険者であった期間によって異なる

●傷病手当金

・健康保険の被保険者が病気やケガで仕事を休み、給与を受け取れない場合に支給される
・支給期間は最長1年6か月

これらの制度を利用する際は、ハローワークや年金事務所、健康保険組合などに相談し、詳細な条件や申請方法を確認しましょう。

再就職に向けた準備と注意点

退職後、体調が回復してきて再就職ができるような状態になったら、以下のポイントに注意しながら再就職に向けた準備を始めましょう。

●焦らない:
完全に回復してから再就職を目指すことが大切です

●自己分析を行う:
これまでの経験を振り返り、自分に合った職種や働き方を考えましょう

●スキルアップを図る:
必要に応じて、新しいスキルを身につけることも検討しましょう

●徐々に活動を始める:
いきなりフルタイムの仕事を探すのではなく、パートタイムやアルバイトから始めるのも一つの方法です

●支援サービスを利用する:
ハローワークや就労移行支援事業所など、様々な就労支援サービスがあります。またオンラインでの転職サービスなども有用です。これらを利用して、段階的に就職活動を進めていくことをおすすめします

●体調管理に気をつける:
就職活動中も規則正しい生活リズムを保ち、定期的に医師の診察を受けるなど、体調管理に気をつけましょう

まとめ|うつ病で仕事を辞めるときにチェックしよう

仕事のストレスとうつ病は密接に関連しています。

うつ病の初期症状に気づいたら、まず専門家に相談することが何より大切です。仕事を続けるか辞めるかは、症状の程度や職場環境を考慮して慎重に判断する必要があります。

退職する場合は適切な手続きを踏み、経済的サポート制度についても確認するとより安心です。また仕事を続ける場合でも、雇用される側だけが職場や業務内容に合わせる努力をし続ける必要はありません。

個人のメンタルヘルスを守るために、状況に応じて職場にも配慮を求めるようにしましょう。

うつ病をケアしながら仕事を続ける、あるいは休職していったん仕事と距離を置く。あるいは、退職してうつ病のケアに集中する。いずれの場合も自身の健康のために必要なことです。

適切な治療と自己対処を行いながら、焦らず着実にリカバリーできるようにしていきましょう。